2001年10月13日に開催された日本社会心理学会にて
ポスター発表された津村先生の論文をご紹介します。
「日本社会心理学会第42回大会発表論文集」(p.592-593)より抜粋

 

『メンタートレーニングプログラムへの
“体験学習”導入の試み』

津村俊充(南山大学人文学部心理人間学科)

 

キーワード:メンタリング、体験学習、人間関係トレーニング

【目的】

  "メンタリング(mentoring)"とは、一般に「経験豊かな人(mentor、メンター)が、未熟な人(protege、プロテジェ、もしくはmentee、メンティー)に対して行うキャリア発達への支援と、心理・社会的な支援」をさしている。(渡辺・久村、1999)

 
ところが、近年、外資系の企業を中心に、 "メンタリング"の導入の再検討が行われている。K. Kram(1983)は、メンタリング行動の記述と分類を行い、仕事に向けての「キャリア的な支援行動」と組織の中で生きる個人としての「心理・社会的な支援行動」を指摘している。
また、その成果として、プロテジェだけでなく、メンターにおいてもキャリア発達が促進され、組織自身への効果的な影響を与えていることを報告している。
  また、メンタリングは20世紀初めの米国におけるBBBS運動(Big Brothers Big Sisters Movement)による非行少年少女の更正支援活動として始められたとされ、今日の米国においても、メンタリングは、青少年の健全育成のためのプログラムにも適応されている。(松田ら,1995)
  メンタリングは、現在の産業界における企業システムとしてだけではなく、今日の学校教育における諸問題を鑑みると、学校教育、地域教育の中においてもメンタリング・プログラムは、子どもたちの健全育成のために有効であろう。


  メンタリング行動の主たる領域は、幅広く人間関係能力であると考えられることより、本報告では、外資系のM社の中堅の社員を対象に、人間関係トレーニングの領域での学習方法として"体験学習"を用いたメンタートレーニングのプログラムを紹介するとともにその意味を探ってみたい。

 

【トレーニングの目的】

 
M社の中堅社員(チームリーダー、マネージャークラス)を対象に、下記のようなトレーニングのねらいを提示し、メンタートレーニング・プログラムへの参加を呼びかけた。

・メンター/メンタリングに関する基礎知識を習得する。
・メンターとして必要不可欠な「対人関係スキル」
 (傾聴スキル/フィードバックスキル/観察スキル)を向上させる。
・メンターとしてメンティーとどのように関わっていけばいいのかを考える。

 

【トレーニング参加者と教育スタッフ】

 24名定員で募集を 行ったところ、48名の参加希望があった。最終的には、32名の参加者があった。
本プログラムは、(株)プレスタイム主催による「メンタートレーニング」であり、本プログラムの教育スタッフは、著者を中心に2名のプレスタイムのスタッフ、計3名がプログラムの展開とメンバーの動きに併せて、介入を試みていった。

 

【トレーニング方法】 

 ・「小講義」によるメンター/メンタリングについての理解。 ・グループ討議と観察、および面談など、傾聴・フィードバック・観察の"体験"を通して、それらのスキルの基礎を体得・向上させる"体験学習"による実践トレーニングを用いる。

図 体験から学ぶ循環過程

【トレーニングの効果と考察】

 
このトレーニングは、学習者が自らの力で気づくことと、共に学んでいる仲間からのフィードバックにより気づきを広げ、そしてそれらの気づきを分かち合いにおいて話し合うことで、学びを深めるようなプログラム展開になっている。

◆ 満足度について:
不満から満足まで、5段階評定で評定を求めた。結果、3(どちらとも言えない):3名、3.5:1名、4(やや満足):12名、5(満足):17名であった。全体的には、満足度の高いトレーニングであった。

◆ 学習内容と現場への適応について:

<学び>
・メンターに関する基本的な指針を得ることができた。
・コミュニケーションの重要性を学ぶことができた。自分の対人関係のありようを再発見することができた。

<現場への応用>
・相手への気持ちにもう少し敏感になっていく必要性がある。
・相手がとった行動をしっかり評価し、モチベーションを高めていく努力をしたい。
・しっかりと観察することを通して相手の新しい部分の発見をしていきたい。

<不充分な点>
・もう少し理論的な背景について知りたかった。
・実習が豊富すぎて、何が大切かが見えにくかった。
・スタッフからの指摘や評価がほしい。

 このトレーニングの最後のインタビューで、参加者の方から
『当社では、勝手に育っていけ ということだと思っていた。これまでは、自分と同じように、後輩たちに苦労をさせようとしていたが、今日の研修から、もう少し人を大切にすること、やさしくなってもいいのかなと考え出している』
『自分の努力を見守ってくれていることの喜びを、今日の研修から充分に実感することができた。パートナーに感謝をしたい』
『この学びを現場に活かしていきたいと思っている』
といった、意見が飛び出したことには、驚きと同時に、現在の企業が生産効率ゆえ、人間尊重の風土づくりが難しくなってきているのかが理解できる。


  メンタートレーニングそのものが、明日の企業・経営のためのトレーニングであると共に、企業人にとって人間関係の希薄さに潤いを与えるような重要な機会になっていると言ってよいだろう。

引用文献;渡辺直登・久村恵子 1999 「メンター/メンタリング入門」プレスタイム
松田惺・若松邦夫・小嶋秀夫 1995 「発達における重要な他者(メンター)とのかかわりの分析(2)日米高校生の比較研究」 『愛知教育大学研究報告』44(教育科学編)。

copyright:津村俊充